十二支縁起と三世両重の因果説を併列して一覧表にすると次のようになりま
す。
以上の通り、三世両重の因果説とは、12の条件を胎生的に解釈して、それが
過去、現在、未来の三世と二重の因果関係になっているとする説です。全く同
じ言葉(表現)を12の条件としてかかげながら、その条件を胎生的に解釈し、
かつ三世と二重の関係になっているとするわけです。
般若心経の作者は「無無明亦無無明尽 乃至 無老死亦無老死尽~」と表現
して、三世両重の因果説と本来の意味の十二支縁起説を重ねながら、一方を「無」、
他方を「無尽」(尽きることがない)と表現して、同じフレーズの中で非常に巧
妙に説いております。
考えようによっては胎生的に解釈された12の条件に三世を重ねた論理を逆
手に取って、三世両重の因果説に本来の十二支縁起説を重ねて説くことにより、
一種の皮肉、エスプリを効かせたようにも思われます。が、しかし、それはげ
すな現代人の(私)勘ぐりで、般若心経を完成するような聖者はそんなことを
する訳はありません。
このように般若心経は説一切有部の「五位七十五法」「三世実有・法体恒有」
とならぶ「三世両重の因果説」の二大実在説を「無」と明確にその実在性を否
定して、空の理法の正しさを説いているのです。