（６）結　1節　故知般若波羅蜜多～

　さて、今回の「その8」でやっと起承転結の結に辿りつきました。このブログ更新は週に一回、金曜日ですが、元々筆無精で表現の言葉に乏しい方なので、考えた事を文章にするのに毎回、四苦八苦してます。

　般若心経の作者である神秘的修行者は、般若心経を真言陀羅尼で結びました。般若心経が完成したのは紀元三世紀から四世紀、お釈迦さまが入滅されてから800年から900年後です。真言陀羅尼を主要な教義とした密教が成立したのが五世紀から六世紀と云われるから、密教教義が完成する数百年前に般若心経に取り入れられていた事になります。

　般若心経は「大般若経」六百巻の真髄であり、時代と共に要約されてきたもので、密教の奥義である真言陀羅尼化する事により、その要約、縮小の最終点に達した事になります。
　真言陀羅尼は秘儀であり、師が弟子に口伝で伝えられてのみその力を発揮すると云われますが、般若心経では秘儀がお経の中に公開された型で組み込まれている訳で、この事自体、大変意義深く、特異なものがあると云えるでしょう。

　　　　　故知般若波羅蜜多
　　　　　是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪
　　　　　能除一切苦
　　　　　真実不虚

　般若波羅蜜多はサンスクリットのパンニャ（智慧）、パラミッタ（完成）、の音写語で「智慧の完成」を意味します。
　故知般若波羅蜜多はそのままだと、故に智慧の完成を知る、となります。しかしそれに続く是大神呪～、を考えると言葉の補足が必要です。
　故に智慧を完成する作法の瞑想の尊さ、価値を知る。
故に智慧を完成する作法の瞑想を呪とした場合の呪の尊さ価値を知る。
　故に智慧を完成する作法の瞑想は次の様に形容出来る最高、最深の呪と同じ尊さ、価値があるのを知る。
　多分、私が考え得るすべての意味を含んでいるのではないでしょうか。

　それは大いなる神聖にして神秘の呪です。それは大いなる智慧の呪です（明は無明の反対語なので）。それは至上至高の呪です。それは無比の呪です。
　呪によって解れる一切の苦しみ、つまり悟りを求めて苦悩する修行者の苦しみ、教えの真理を求めて迷う求道者の苦しみ、災いを受け幸せを得られない民の苦しみを確かに取り除くのです。
　それは真実にしていつわりのない事です。



（７）結　2節　故説般若波羅蜜多呪～

　般若心経に込められたお釈迦さまの悟り、真理を呪としてその力を普遍化するに際して、神秘的修行者は呪そのものをお経に取り込む前に、逡巡する様に言葉を重ねます。

　前回の「（６）結　1節」では

　　　　　故知般若波羅蜜多

　として、ここではさらに次のように重ねます。

　　　　　故説般若波羅蜜多呪
　　　　　即説呪曰

　般若波羅蜜多の行（瞑想）を象徴する呪はなんと尊い事だろう、故にここに般若波羅蜜多の呪を説く、すなわち呪を説いて曰く。
　そして最後に呪が説かれます。
　ギャテー、ギャテー、ハラギャテー、ハラソーギャテー、ボージソワカ、般若心経

　この真言の言葉としての意味を明らかにされておりますが、私はその意味を考えません。真言は真言として音声を発してとなえる事が大切だと思うからです。