般若心経が神秘的修行者によって完成されたのは、お釈迦さま入滅されてから700年から900年後の事とされる(仏教辞典)。
ここで仮に、お釈迦さま入滅されて800年後とします。修行者が般若経で空を主張しはじめたとされるのは、お釈迦さま入滅されて400年後のことで、それから計算しても、さらに400年後です。龍樹がその主著「中論」において空の理法を完成したとされるお釈迦さま入滅されて600年後から数えても、さらに200年後の事です。
なぜ神秘的修行者はお釈迦さま入滅されて800年後に、大乗仏教の八宗(全ての宗派)の宗祖として尊敬される龍樹の空の理法を、さらにコンパクトに般若心経にまとめたのでしょうか?
以下、これは般若心経を起承転結に分解して解釈してみて思い至った、全く私の想像です。
第一の理由。般若経に始まる大乗仏教の興隆の中でお釈迦さまは極端に神格化され、歴史的存在感が希薄になっていた。これに対して般若心経冒頭で、修行の方法(行深般若波羅密多時→智慧を完成する瞑想を深く行じていた時)と悟りの内容を具体的に述べる事で、お釈迦さまの歴史的存在感と悟りの実証性を強調した事です。
第二の理由。お釈迦さまは実在を否定する縁起の法を説かれた。お釈迦さま入滅されて400年後に、実在を肯定して仏教の主流となった「説一切有部」(すべてのものはあると説く集団)が実在説の根拠とした説、「三世実有・法体恒有」(五位七十五法は三世に実在する説)と「三世両重の因果説」(十二支縁起は三世に実在する説)を構成する言葉と論理を、無、無、無、無と徹底否定する事により仏教教説をお釈迦さまの真意に回帰させた事です。
第三の理由。般若心経の神髄として最深最強の呪いを与え、全ての人の修行と信仰上の徳目とした事です。
以上、3つの理由を考える私には、全く不可解な般若心経の解説書に最近出会いました。
NHKテレビテキスト、「100分de名著」の般若心経です。著者は花園大学教授佐々木閑氏で、最初2013年1月に放送された番組で、2014年9月アンコール放送されたものだそうです。
佐々木閑氏は京都大学工学部工業化学科、及び文学部哲学科仏教学専攻を卒業しており仏教学に関する数々の賞を受賞した人です。
佐々木閑氏がその著書で般若心経について述べている中で、特に気になる箇所を抜粋して、次回紹介します。